夜の柩

語るに落ちる

2022-09-01から1ヶ月間の記事一覧

臆病者の恋

馴染まない夏を振り払うように曝け出した脚と、結露を起こして水滴が纏わり着いたレモンエードのグラスと、蚊帳の外かと思いきや内側に閉じ込められていると知ったある夏の昼下がり。 暑さと湿度に負けて晒した脚に同じものが絡んで、似たような体温が鬱陶し…

おむすび、おにぎり

おむすび、という響きが好きだ。おにぎりという言い方も好きだけど、おむすびという言葉の方がなんだかよい。食べ物としても非常に愛着がある。丸型はころんとして可愛いし、俵型はちょっと高級な感じがする。でもやっぱり三角型が一番心に刺さる。絵本とか…

日曜日の夜には決まって

日曜日の夜に、母親と部屋の電気を消して日曜洋画劇場を観るのが好きだった。映画の解説者は淀川長治さんで、番組の締め括りは「さよなら、さよなら、さよなら」という台詞だったのをよく覚えている。それで日曜日の夜が終わるのが恒例だった。 母親は生粋の…

無数の道連れと夢の果て

それは昔、もっとずっと子どもだった頃。蟻の巣をよく潰していました。真夏の炎天下、はしっこが綻びた大きな麦わら帽子を被って、少しだけ色の悪い顔を隠して祖母の目を盗み、遊びに出た庭の一角。見つけたのは無数につらなる黒い影でした。 それはまるで軍…

枯れ木に水を与えたところで枯れたまま

「今時植木鉢なんて珍しくもないだろう」 「きみの部屋にあることが珍しい」 「……それもそうか」 「ペットも植物も最後までみられないって言って自分の手元には一切置かなかったのにね」 「今でも変わらない。どちらかといえば植物の世話は兄さんの方が上手…

ものぐさ極まって両生類になる夢をみる

風呂が面倒だ。入ったら気持ちいいのはわかるけど、その入るまでが面倒で仕方ない。元々ものぐさな部分が前面に出てきて、全自動人間丸洗い洗濯機なんてものがあるなら是非ともほしいとすら思う。そこまでいくとちょっとSFめいているし、星新一のショートシ…

翅の一枚にもきっと虫生がある

虫は全般苦手だ。特に足の速いやつと飛んでくるやつ。足の速い方は目を離した隙に跡形もなく姿を消しているし、飛んでくる方はなぜか顔面に向かって突っ込んでくる。前者はいつどこで再会するかわからない恐怖に怯えることになり、後者は威嚇という名の喧嘩…

鞄の中の小宇宙

鞄を変える時、いつも困る。一つ買ったら草臥れるまで使い続けるけど、どうしてもこの服装にこの鞄は似合わないという問題が発生することがある。それを回避するために、ここ数年で2、3個違うタイプの鞄を用意しておくようになった。そこまではいい。一番の…

とりあえず、積んどく

買った本を積んでしまう。本屋や図書館は住みたいくらいに好きで、休日の開店時間から行こうものならほぼ一日そこに入り浸るくらいだ。その中で気になった本を買ったり借りたりするのだけど、自分の手元に来たという安心感が勝るのかなんなのか、すぐに本を…

書くということ

書く。描く。どちらかといえば、専ら書く側だ。昔は描く方が多かったのにいつの間にか書く方になった。というのも、描いているうちに色の識別が正しくできていないことに気づいたからだ。色盲というほどではない色弱ではあるけど、自分が知っている色は本物…

紫煙を燻らせる夜

夜中にふと目が覚めた時に窓をあけて煙草を喫う。いつも眠りが浅くて少しの物音でも起きてしまう。しばらく眠れないこともザラにある。時間的にも誰かに連絡できないし、そもそも連絡をするような相手もいない。いや、いるにはいるが、一言連絡を入れること…

心ここにあらず

ふとした瞬間にここではないどこかへ行きたくなる。思えばずっと、それこそ子どもの頃からずっと、心のどこかでここではないどこかへ行きたいと思っている気がする。実家は安心できる場所ではないし、学校も面白くなかったし、地元自体好きではなかった。 最…

たまご料理

自炊をちゃんとするようになってから、材料や手順は単純だけどむずかしいなと思う料理がいくつかあることに気づいた。筆頭はたまご料理。目玉焼き、たまご焼き、ゆでたまご、スクランブルエッグ、オムレツ。どれも難しい。 基本は半熟が好きだけど、弁当に入…

まつりばやし

仕事の帰り、少し寄り道をしたら遠くから祭囃子が聞こえた。9月も半ばに入って少しずつ秋めいてきた今日この頃。残暑がまだまだ厳しい日々の中で、笛や太鼓の音が鳴る。夕焼けの空に混ざるそれが少しだけ胸に迫るような、郷愁のような、焦燥のような、懐かし…

朝のはじまり

朝に弱い。低血圧と低体温と眠りの浅さによる慢性的な寝不足から頗る朝に弱い。でも会社というコミュニティに所属して雇われているからには嫌でも起きて家を出なくてはいけないので、起き抜けの30分ほど布団の中でじっとしている時間を確保するために早くに…

書くにあたって

作ったまま何を書こうかと悩んで今になったこの場所。今日を機に書いていこうかと思い立つある秋の朝。見切り発車はいつものこと、今度はいつまで続くだろう。ねぇ、いつまで続くと思います?って友人たちに訊いたら「ある日突然現れてある日突然いなくなっ…