夜の柩

語るに落ちる

臆病者の恋

 

馴染まない夏を振り払うように曝け出した脚と、結露を起こして水滴が纏わり着いたレモンエードのグラスと、蚊帳の外かと思いきや内側に閉じ込められていると知ったある夏の昼下がり。

暑さと湿度に負けて晒した脚に同じものが絡んで、似たような体温が鬱陶しかったのに振り払うための言葉は出てこなかった。振り払えなかったのかもしれない。視線を投げた先で合った目が、夏の暑さにげっそりとやつれながらも情の籠った別の熱を宿していたせいで。普段はそんなものを忘れるほど微塵も気配を感じないのに、ふとした瞬間に見えてしまうと、何かわからないものに絡め捕られた気がして落ち着かなくなる。海辺で砂が絡めば縺れて転んでしまうように、その瞬間に完全にその目に捕まってしまう。

半分残ったレモンエードのグラスは混ぜた炭酸の気泡がしゅわしゅわと弾けている。結露が滴って床に水溜まりを作っていた。手繰る指が暑さを助長させる。どうか、触らないでほしい。きっと蒸発してしまう。

馬鹿だなって笑って今度こそ振り払おうとしたら、どこにも行かないでと言いたげに手を握られて、もう閉口するしかなかった。