夜の柩

語るに落ちる

夜に生きる獣とやさしさ

 
こんな夢を見た。

それはまるで、祈りのようにも儀式のようにも見えた。あの人の頬を撫でていた掌に、あの人がくちづけをした。その瞬間、世界中の誰よりも幸福と祝福に満ちた気持ちになった。

きっとあの人にはそんなつもりはなくて、ただやさしく触れたいといったその言葉に合わせてくれただけだと思うけど。それでも一番最初に触れた時、一瞬身を固くして息を詰めるような、確かに戸惑っている気配を感じたのに。振り払うでも逃げるでもなく受け入れたのは意外なようなそうでもないようなでなんだか不思議に思った。他愛のない話をぽつぽつと交わして、時々ほろりとこぼれ落ちるように笑う顔がなんだか可愛かった。

長い前髪の奥にある目と合う。宵闇の中でひっそりと息をする獣の元へ、無防備にも近づいた人間をひた隠しにしていた本来のやさしさで受け入れるような眼差しだった。夢の中だとわかっていたけど、だからこそ、あんなにも朝日が昇ることを惜しんだことはない。もうすぐ夜が明ける、と呟かれた声に倣って空を見上げてみたけど、どうにも上手い答えを返せなかった。だって、もう少しで終わる。文字通り、夢がさめる。そうしたら何事もなかったかのような顔をして日常に戻る。何も知らないあの人と、こんな夢を見てしまった後でどうしようか。無機質なアラームの音に邪魔されて、最後に何を言われたのかまるで思い出せない。何もないままで終われるならそれが一番いいのに。

目が覚めた後でも、君はあの夜に彷徨っていないだろうかと、そればかりを気にしている。