夜の柩

語るに落ちる

こんなとこにいるはずもないのに

 
冬が近くなると野良猫がいなくなる。元々そんなに野良猫が頻繁に転がっているような場所でもないけど、たまに散歩中に何も通っていない車道を悠々と歩く姿を見かけていたのに、ぱったりと影も形もなくなる。彼らは一体どこへ行ったのだろう。頭の中で『いーつでもさーがしているよー、どっかにきーみーのすがたをー、向かいのホーム、路地裏のまどー』なんて誰かの歌が流れ出す程度にはもふみを欲しているのにいない。一体どこへ。

単純に厳寒の土地でどうやって生き抜いているのか疑問でもあるし、餌なんて確保の仕様がなくなると思うので、不謹慎な話ではあるけど凍死や餓死した子たちがいても何もおかしくはない。のに、その姿も見えないから不思議だ。そうなっても知らないところで回収されているのかもしれないけど。でもできれば、どこか温かい場所で長い冬を越えていてほしいと思う。生粋の野良猫として野良をまっとうしている子も、寒さばかりはどうにもならないだろうから。どこか温かい場所でぬくぬくと過ごしていてほしい。そうして春になったら達者に生きている姿を見せてほしい。

やあやあ、あそこでよく日向ぼっこをしていた君じゃないか、元気だったかい、今までよくぞ無事で。そんな風に心の中で声をかけるのも、長い冬を越えた先にある楽しみの一つだったりするので。そんな風に勝手に思っているこちらの気持ちを我関せずという顔でそっぽ向く横顔を見るのも醍醐味なので。