夜の柩

語るに落ちる

消えものばかりを選ぶ

 
クリスマスケーキ、お節、七草粥、節分と恵方巻き、バレンタイン、ホワイトデー。見事に食べることには情熱をかける国だなぁと思う。

バレンタインといえば、製菓会社の策略に乗るのは癪だと思いながら、その実あの人からのそれを欲しがり、ねだったのは今となっては良い思い出になっている。そういえるほどには昔の記憶のひとつになった。ただ、その時にこちらから渡したものを思い返して後悔したのは否定できない。せめて手紙の方は燃やして欲しいと願ったのは、何も知らなかった自分の愚かさの一端を消したかったからで、残していてほしくなかったから。だから数年越しに、まだ手元に残っていると聞かされた時はひどく動揺した。後生大事に持っていてくれたことを喜ぶべきなのかどうなのか。この動揺がバレるほど表に出ていたらしい。

本当は手元に残るものを渡す気はなかった。離れた時に思い出したり、嫌な思いをさせるのではないのか、と思い上がっていた節もある。そう、これは思い上がりだ。今でも思い上がっている。それがせめて、あの人の心の片隅で邪魔になっていなければいい。