夜の柩

語るに落ちる

この時期に見かけるあいつ

 
この時期になるとパン屋や洋菓子店でよく見かけるようになるあいつ。どっしりと重くてドライフルーツとナッツがみっしり詰まっていて洋酒が効いてしっとりした味わいのあいつ。

シュトーレン。それを食べるのがこの時期の楽しみの一つだ。一切れずつ薄く切り分けてクリスマスまでに食べる過程もいい。初めて食べたのはもう数年も前になるけど、こんなに夢のある食べ物なのかと感心した。見た目の素朴さというか、無骨さに似合わない甘くて柔らかい美味しさに驚いたのもある。それからは冬の時期に見つけると買うようになり、ちまちまと食べ進めては最後の一切れを惜しむ。美味しいものはあっという間に食べてしまいそうになるけど、ぐっと堪えて明日の楽しみに取っておく。胃袋が大きければ丸かじりするのもいいなぁと思うけど、それだと情緒がない──カロリーは恐ろしいほどある──ので、やっぱりちまちまと食べていこうと思う。

明日少しだけ早く帰る予定なので、まだあったら買って帰りたい。たまに、シュトーレンの名前を冠したただのパウンドケーキもあるから、後でがっかりしないように吟味しなくてはならない。通り過ぎた店頭で見かけるまで頭の中はアップルパイでいっぱいだったのに、すっかりとシュトーレン一色になってしまった。やっぱり期間限定にすこぶる弱いらしい。