夜の柩

語るに落ちる

この時期に見かけるあいつ

この時期になるとパン屋や洋菓子店でよく見かけるようになるあいつ。どっしりと重くてドライフルーツとナッツがみっしり詰まっていて洋酒が効いてしっとりした味わいのあいつ。 シュトーレン。それを食べるのがこの時期の楽しみの一つだ。一切れずつ薄く切り…

手元にあるものを長く

祝日に大感謝してここぞとばかりに寝てやろうと意気込んでいたのに結局いつもの時間に起きて着替えてぼんやりしながら煙草を吸ってコーヒー飲んで外を散歩した。生活習慣ってこわい。つめたい空気に肺が凍りそう。今週は雨マークがついていて、来週は雪マー…

勤労感謝の日

明日は勤労感謝の日らしいですよって何気無く話題にしたら、齷齪働いてることに感謝されたいって返ってきたから曖昧に笑って頷いておいた。大人になればなるほど褒められることはなくなるし、責任ばかり重くなるし、苦しむことも多くなる。大人ってなんです…

脳内会議の落とし所

月曜日を迎えるたびに色々な絶望が過ぎる。今朝はなんだかふと、遅れて行こう、と思ってしまった。ふつうに準備して着替えて靴まで履いて鍵まで手にしたところで。遅れて行こう、ほんのちょっとだけ。端末を手にして偉い人に「一時間遅れます」と連絡を入れ…

いつか書きたい日記

・昔呼ばれた名前を呼ばれて息が止まりそうになった話 ・手帳の話 ・手紙の話 ・実家の庭の話 ・料理の話 ・煙草の話 ・ベランダでの話

新・オーブンレンジ

新しいオーブンレンジが届いた。今まで使っていたものより少し小さくてパールがかった白。とても綺麗な子だと思う。初めて使った感想は「めちゃくちゃお知らせ音大きい」と「きみ、大きさに反して重いな!?」だった。持ち上げようとすると腰がやられそうに…

消えものばかりを選ぶ

クリスマスケーキ、お節、七草粥、節分と恵方巻き、バレンタイン、ホワイトデー。見事に食べることには情熱をかける国だなぁと思う。 バレンタインといえば、製菓会社の策略に乗るのは癪だと思いながら、その実あの人からのそれを欲しがり、ねだったのは今と…

甘いハッタリ

疲れた目を見ながら間の悪い嘘を聞いて困ったように笑いながら甘ったるくてすぐに溶けて消えるような夢を話してやるせない時間を煙草の煙と一緒に噛み潰した後に砂糖とミルクを無駄に多く入れたコーヒーで口にするか迷った言葉を喉の奥へ流し込む夜。 こんな…

オーブンレンジが「どうやらここまでのようです」と言うので

騙し騙し使っていたオーブンレンジがとうとう壊れた。壊れたというか、コンセントの接触が悪くなって電源がつきにくくなり、温めにもムラが出るようになった。動くには動くから壊れたとは少し違う気はするけど、買い換えるには良い機会かもしれない。 考えて…

渡舟の向こう

神様のボートに乗って遠くへ行ってしまった人のことを考えていた。電車でいうなら片道切符、途中下車不可の道程。無事に目的地には辿り着けましたか。そちらの景色はどうですか。何がありますか。何が見えますか。何が聞こえますか。せめてこちらのように、…

言葉の壁

標準語ってどこの地域を基準にしているのだろう。日本ならやっぱり東京になるのだろうか。でも東京も、少し前まで江戸っ子みたいな言葉があったくらいだから、標準語と呼ばれる言葉や発音が生まれたのは本当に最近のことだと思う。地方から来た人たちの坩堝…

水面下から見上げる空

何だかんだ言いながら、何だかんだ動きながら、毎日毎時間毎秒呼吸をしている。 溺れないための息継ぎをする練習場所を探さなければならないのかもしれない。泳ぎが得意じゃないならせめて沈まなければ良い。ただそれだけの話だ。 ただそれだけのことが、こ…

食事という行為=生命維持?

昔から食事が苦手だ。元々食べるのがそれほど早くないこともあるし、幼稚園では弁当を全部食べ終わるまでずっと一人で残らなくてはいけなかったし、家では酒を飲んで暴れる父親がいたからゆっくり食卓を囲むなんてできなかった。よく預けられていた祖母の家…

夜にかくれんぼ

例えば指の先にのせられる程度には残っていたはずの夢だとか希望だとか展望だとか。そういうものを思い出したように眺めてみては、ささやかなそれが手に入らないことを思い知って目を伏せる。どうしたって、どう足掻いたって、目指していたものは遠いのだと…

賽子の目、7ばかりにならないかな

賽子を振って出た目の数だけ進む人生ゲーム。一旦休みとか4マス戻るとか、運が悪いとその繰り返し。結婚をして子どもが増えたかと思えば財産を没収されるマスもあって、ゲームにですら良いこと悪いことが全部詰まっている。人生ゲームという名の通りに。現実…

夜中の疑問

夜中に目が覚めたら煙草を吸う。眠れなくなった夜の慰めに一本、二本。電気を落とした暗い部屋に響くのは加湿器のコポコポ……という音と外で車が通り過ぎる音。それに混ざってジジ、と煙草の燃える音も混ざる。365日24時間ずっと何かしらの生活音がするんだな…

シュレディンガーのやさしさ

夜、布団に入ると色々な考えが脈絡無く浮かんでは消える。昼間には思いつかなかったようなことも、今の今まで忘れていたようなことも、後悔も反省もアレコレと目まぐるしい。布団に包まれて重たい体や疲れを溶かされることで気が緩むのかもしれない。抑圧さ…

こんなとこにいるはずもないのに

冬が近くなると野良猫がいなくなる。元々そんなに野良猫が頻繁に転がっているような場所でもないけど、たまに散歩中に何も通っていない車道を悠々と歩く姿を見かけていたのに、ぱったりと影も形もなくなる。彼らは一体どこへ行ったのだろう。頭の中で『いー…

夢を見たから思い出した

愛してるすら言わせてくれなかった。きっとこれは、あの人のための言葉ではなかった。 どんなに好きでも、どんなに焦がれていても、言えない言葉や言えなかった言葉はたくさんあって。それらが今になって柔らかい真綿のように首を絞めてくる。なんてタチが悪…

絶望の味をひと匙

全て不可抗力な理由でも、ニ~三年単位で職場を変えていると、子どもの頃にぼんやりと考えていた理想の自分には程遠いな、と思う。地に足のついた生活を送っているのが自立した大人だと思っていた。それを基準にして今の自分を考えると、胸を張って自立して…

淡いとグロテスク

淡いかなしみ、グロテスク。 本当を口にするのは怖いから嘘と強がりばかりが上手くなる。たくさんの、それはもうたくさんの積み上がった嘘。その中に紛れてしまえば臆病なこころは見えなくなるから安心する。そうして必死に守るものは傍から見れば小さくて下…

昼下がりの妄想も明後日に逞しく

祝日だけど外に出た。携帯ショップに来店予約を入れたために外に出る理由ができてしまった。コロナが始まってからなんでも予約をしないといけなくなって、行けそうな時に行っても門前払いをされることが多くなったからすっかりと足が遠のいた場所も多い。携…

ブルボンのお菓子

ブルボンのお菓子を食べるたびに思い出すことがある。 ひとり暮らしを始めて最初に就いた職場。そこに週一で来ていた九十代の方が「あのねぇ、お得意先からブルボンっていうお菓子を頂いたんだけど、これがすっごく美味しくて。どこに行ったら売ってるの?」…

夜に生きる獣とやさしさ

こんな夢を見た。 それはまるで、祈りのようにも儀式のようにも見えた。あの人の頬を撫でていた掌に、あの人がくちづけをした。その瞬間、世界中の誰よりも幸福と祝福に満ちた気持ちになった。 きっとあの人にはそんなつもりはなくて、ただやさしく触れたい…

冬将軍の足音が響く

めっきり寒くなった。冬に着々と向かっている。今週のどこかで雪マークがついていた。少しずつ布団から出るのがつらくなる季節がやってくる。少し前に毛布を引っ張り出して、家にいる間はほぼそれに包まる日々を送っている。冬がくるんだなぁ。長くて寒い冬…

眠る前の与太話

今更ではあるけど2021年って数字が世紀末感漂っていた気がしないかっていうどうでもいい話。更にいうならそもそも21世紀って言葉自体が世紀末感ある。 そんなどうでもいい話だけど、存外酒の肴にするにはこういうネタが丁度良い。毒にも薬にもならない、まし…

進む歩幅よりさがる歩幅が大きい

何かを変えたいと願い、動いた先で、またどん底に叩き落とされる。昔から変わらない。願うだけ無駄だと足を引っ張る何かが必ずある。それでも死ぬまで動かない訳にはいかないから、限られたできることをするだけ。 世界は残酷だと嘆く人たちは、世界に何を期…

何も知らない繋がり

離れがたいとか、もう少し話したいとか、別れ際に名残り惜しむ気持ちがあるくらいで丁度良いのかもしれない。その方がふとした時にどうしてるかなって思い出せる。 顔も名前も何も知らない誰かとそれらを知らないまま仲良くなりたい。それ以上でもそれ以下で…

十人十色を超えている

夏の憂鬱を溶かした炭酸の気泡が弾けて消える。神様は白日に散った。愛は容易く手を離れる。今はただひっそりと、もう見えないその尻尾が消えた先を見送っている。 愛の形や在り方があまりにも多すぎる。どれもが正しくてどれもきっと正しくない。人の数だけ…

勝手に期待して、勝手に裏切られた気持ちになって

『東京は愛せど何もない』 丸の内サディスティックの歌詞にあった一文。それは全てを手にしているから何もないと思うんじゃないのかって。元から何もなければ東京はやっぱり都会で、便利で、何でもあって、憧れと妬みの坩堝なのだろう。そこにいてたくさんの…