夜の柩

語るに落ちる

笹舟流し

 
記憶のひとつひとつが重くて、ずっと抱えていると時折苦しくて堪らなくなる。それでも手放すことができないから、どうにかこうにか持ち方を変えてみたり、積み上げる場所を分散させてみようと試みるけどなかなか上手くできない。

重ねてきた行為の結果で今があるから、もうこれしかないと思い込んでいるのかもしれない。未来は今を重ねて出来上がる。なのに、傷になってしまったものはいつまで経ってもじくじくと膿んで瘡蓋にならないから、せめてこれ以上広がらないように押さえつけることで精一杯になる。過去には戻れない。戻れたとしても治したり正したりする術を知らないから、きっとまた同じ道を歩むことになる。あの時ああすれば良かった、こうすれば良かったというのは、過ぎ去ってから見えてくる選択肢のひとつで、その時はどうやっても見えないものだから。

 

ノアの方舟に乗る人たちを見送ってはひとりで笹舟を作って海へと沈ませる。乗せられるものは何もない。置いていけるものもない。いつまでもずっと、波打ち際で水平線を眺めたままどこにも行けないでいる。