夜の柩

語るに落ちる

瓦解するピサの斜塔

 
手許になくても生きていけるものばかりが足元に散らかっていて、さっきからそれらを踏んで歩いている。いつか踏んでしまったものものを思い出して懐かしむ日は来るのか来ないのか。なんとなく摘んで拾い上げたひとつが、一体いつからここにあるのかわからないから、きっとそういうことだろう。

その時は確かに必要で、欲しくて、どんなに大切だったはずのものでも、時が経てばいつの間にか優先順位から外れて記憶のすみに追いやられてしまう。選別されたものだけが強く残るのかもしれない。それでも、ずっと愛してやれたらよかった。