夜の柩

語るに落ちる

無数の道連れと夢の果て

 

それは昔、もっとずっと子どもだった頃。蟻の巣をよく潰していました。真夏の炎天下、はしっこが綻びた大きな麦わら帽子を被って、少しだけ色の悪い顔を隠して祖母の目を盗み、遊びに出た庭の一角。見つけたのは無数につらなる黒い影でした。

それはまるで軍隊のように規則的に、隙間無く、淀み無く、迷い無く進んでいくのです。その行進が喪服を着た人たちの姿に見えて、不気味でざわりとした寒気を覚えました。その、どこまでも続く喪服の中に塊のようなものが運ばれていて、よくよくと目を凝らして見てみれば、意識を失って虫の息になっている蝉でした。手足がかすかに動くだけの。

 

ああ、あれは棺桶なんだ。

 

それならきっと、行き先は火葬場。死体は燃やすという風習がこの国にはあり、それは何も人ばかりではなく動物植物、果ては人形や使い古した物品にまで及ぶといいます。この蝉もきっと例に漏れず。押し込まれるように入っていった蟻の巣の中──今踏み締めているこの土の下──にもそれはあるのでしょう。

入り口から煙が昇る前に消火作業をしなくてはなりません。なみなみと揺れる水が入ったじょうろを抱えて、その火葬場へと流し込みました。行進が途切れた喪服の列はばらばらになり、火葬場の回りをうろうろしています。それが気持ち悪くも奇妙で哀れに思え、最後の一滴をこぼしたじょうろを片手に提げたまま、今度は散らかっている影を踏みつけました。繰り返し繰り返し、ぶちぶちと何度も。ぶちぶち、ぶちぶち。

転々として動かなくなったそれの上に砂をかけて、もう何も焼かなくていいように石で入口を塞ぎました。小さな墓標の前にしゃがんで合掌。汗が流れる肌の上で、蝉の声がひどく煩かったことを覚えています。まるで生きることに固執しているようで頭が痛くなるばかり。目が眩む、眩む、眩む。あ、落ち、る。

陽射しがカンカンと照りつける真夏の出来事でした。

その後、長く炎天下にいたためか夜には熱を出してしまいました。布団の中で横たわる子どもに、不機嫌な祖母は庭先に出ることを固く禁じたのです。ただの一言、はい、とだけ呟いて眠りに落ちました。

その日の夢にみたのは規則的な行進と運ばれる死骸と墓標でした。喪服の行進の中に一緒に並んで火葬場へ向かっていくのです。強い日差しが照る暑い暑い日。一寸先で揺れる陽炎を追うように、カラカラに渇いた砂利を踏み締めて歩く。

その後その喪服の葬列がどうなったのかは誰も知りません。